真核生物と原核生物の移行系とも目される微胞子虫類のrRNAの構造解析を行い、真核生物の起源に関する知見を得るために、本研究では、特にリボソームの機能に注目し、微胞子虫および類縁種のリボソームによる試験管内タンパク質合成系を構築し、これらの生物のリボソームの諸性質を他の真核生物や原核生物と比較検討することを目指した。 原核生物型リボソームを有する真核生物であるN.bombycisおよびTritrichomonads foetusのリボソームを用いて、無細胞タンパク質合成系の構築を試みた。 N.bombycisはカイコを宿主とする絶対寄生性原生動物であり、リボソームを得るための材料としては、感染蚕より胞子として得る以外の方法はない。この生物の胞子は極めて頑健であるが、海砂を用いて機械的に胞子を破壊する方法により、無細胞抽出液を作成し、リボソームおよびrRNAが回収されることを確認した。得られた無細胞抽出液は常法により分画遠心し、リボソーム画分および可溶性酵素画分に分画した。このようにして調整したN.bombycisのリボソームを用いて、外部から与えたmRNAであるpoly(U)に依存して生じる放射性Pheの酸不溶性画分への取り込を指標とする無細胞タンパク質合成系の確立を目指した。また、N.bombycisのリボソームおよび可溶性酵素画分からなる反応系に、ラット肝臓の可溶性画分を添加することも試みた。現段階では、リボソーム1個あたりの取り込み活性が極めて低く、反応系に加える諸因子の量などを詳細に検討する必要性が明らかになった。 また、材料の入手がN.bombycisよりも容易なT.foetusも用いて、同様な無細胞タンパク質合成系の構築を試みた。T.foetusは牛の膣に寄生する真核生物であり、N.bombycisと同様に原核細胞型リボソームを有することが知られている。この真核生物を実験に用いることが出来る程度に、人工培地上で増殖させる条件の検討を行った。
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