リボソームはタンパク質合成の場としてあらゆる生物細胞に存在する細胞内小器官であるが、古くより、真核生物と原核生物のリボソームのあいだには際立った相違があることが知られている。原核生物リボソームと真核生物リボソームの間には機能的にも構造的にも互いに異なっているという事実は、真核生物の起源に関する考察-例えば、複数の原始原核生物が融合して原始真核生物となった-を行うに際して、常に念頭に置くべきこととされてきた。しかし近年、これまでは分析の対象とされなかった原生動物を中心とする様々の生物のリボソームについての知見が得られだし、少なくともrRNAの大きさに関しては、上述のように原核生物と真核生物を画然と分別することはできないのではないかとの疑義が生じつつある。本研究では、リボソームの機能に注目し、微胞子虫N.bombycisやその他のいわゆる原核生物型のリボソームを有する真核生物からリボソームを調製し、それらを用いて試験管内タンパク質合成系を構築し、これらの生物のリボソームのタンパク合成における諸機能が、他の真核生物や原核生物と異なるのか否かを検討することを目的とした。そのために、N.bombycisの休眠胞子より、様々の方法を用いて、in vitroで外来アミノ酸をタンパク質に取り込む能力を有するリボソーム画分を調製することを試みた。細胞破壊法、分画法など種々の異なる手技を用いたが未だ充分な取り込み能力を保持する標品を得るには至っていない。しかしこの研究途上で、N.bombycisより、HSP70をクローニングし、その配列などを解析した結果、N.bombycisのような、ミトコンドリアを持たない原核生物型リボソームを持つ真核生物は、二次的にミトコンドリアを失ったことを示すデータを得た。
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