研究概要 |
日本各地より採集した、ホンモンジスゲ類のニシノホンモンジスゲ、コシノホンモンジスゲ、ミチノクホンモンジスゲ、ノズゲ、ベニイトスゲ、シロイトスゲ、アリマイトスゲ、チャイトスゲ、イトスゲ、ケスゲ、総計10taxa,40集団,684個体について染色体の観察と酵素多型の分析を行った。また、酵素多型分析には、外群としてオクノカンスゲ1集団11個体を用いた。 染色体に関しては、ケスゲで2n=74〜80,ベニイトスゲ2n=66〜71,ニシノホンモンジスゲで2n=58〜61,イトスゲで2n=70〜74,ノスゲで2n=66,67の連続した種内異数体が集団内で見られた。減数分裂での対合分析により、III価染色体が高頻度で出現し、その他の多価染色体は見られなかったことから、III価が染色体の消失を伴わず両極に分配されて、各集団で維持されることにより連続した種内異数性が生じたことが明らかになった。また、III価は、全て異型対合をしていたことから、染色体の構造変異によって種内異数体が出現したと考えられる。酵素多型に関しては、ニシノホンモンジスゲ、コシノホンモンジスゲ、ミチノクホンモンジスゲ、ケスゲの4taxa間の遺伝的距離は0.128〜0.182という最も小さい値が得られ、これら4taxaは、遺伝的分化の程度が低い分類群であることがわかった。チャイトスゲは、他の9taxaとの遺伝的距離の平均が0.315と大きく、遺伝的に離れたtaxaである。また、ベニイトスゲ、チャイトスゲ、イトスゲ、ケスゲの4taxaにおいて、6-Pgdで遺伝子重複が観察された。これらは、NJ法による系統樹からも、よいまとまりを示し、この4taxaが分化する過程で、遺伝子の重複が生じたことが明らかになった。また、系統樹から、北方に分布していたミチノクホンモンジスゲまたはコシノホンモンジスゲが、西南に分布域を拡大するに伴い、ニシノホンモンジスゲが分化したものと推定された。
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