研究概要 |
本年度はOhwi、AkiyamaおよびLeveille and Vaniotにより記載されたタイプ標本を参考にして、日本各地のホンモンジスゲ類の分類学的再検討を行なった。その結果、イトスゲ、アリマイトスゲ、オオイトスゲの3種に関して次のような新知見が得られた。 イトスゲは、Leveilleand Vaniot(1901)により茨城県をタイプロカリティとして記載されており、タイプ標本(Faurie 4431,P)の葉幅は1.0〜1.5mmである。中部地方以東に生育する個体で葉幅が1.0〜1.5mmのものはタイプと同じ形態を持つものである。しかし、近畿地方以西に分布する葉幅が0.5mm以下の個体は、葉はすべて内巻きしている。葉幅が0.5mm以下で葉は内巻きしないハコネイトスゲとも明確に区別でき、これまでイトスゲと同定されてきた近畿地方以西に分布する植物は新分類群であることが明らかになった。岡山県後月郡芳井町産の個体は、匍葡枝、小穂、葉鞘などの形態がアリマイトスゲと同一であったが、果嚢に毛が多いことや嘴が長いことで異なり新分類群であると考えられる。また、小山(1964)と大井(1983)が記載したオオイトスゲは、植物体の大きさと基部葉鞘の色の違いで北海道に分布するオオイトスゲと本州に分布するシロイトスゲの2分類群に区別でき、秋山(1955)の見解を支持する結果が得られた。 以上の結果をもとにホンモンジスゲ類の検索表の作成を試みたところ新たに作成した検索表は、大井(1983)に近いものとなった。秋山、小山、大井は色の形質に重点をおいて分類しているが、各分類群で色の変異が大きく、果胞の毛の有無を重視することで検索しやすいことがわかった。
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