カヤツリグサ科スゲ属のホンモジスゲ類は外部形態が種間でよく似ており、スゲ属の中でも特に分類が困難なグループである。本研究では、タイプ標本を参考にして日本産のホンモンジスゲ類の分類学的再検討を行った。さらに、10分類群に関して染色体と酸素多型の分析を行ない近縁種の類縁関係を考察した。 1.ホンモンジスゲ類の分類学的再検討 小山(1964)と大井(1983)によりオオイトスゲとしてまとめられていた北海道産の個体は、植物体が小型で、基部葉鞘が淡褐色である点で異なり、本州に分布するものと異なる分類群であることが明らかになった。また、これまでイトスゲとされていた西日本に分布する個体は、葉幅が0.5mm以下で葉はすべて内巻きしており、イトスゲおよびハコネイトスゲとは異なる新分類群であることが明らかになった。今回の分類学的再検討により、ホンモンジスゲ類は15種11変種に分けられた。 2.染色体の分析 集団内で連続した染色体数を持つ種内異数体が5分類群で観察された。減数分裂での対合分析により、異型対合をしたIII価染色体が高頻度で出現し、その他の多価染色体は見られなかったことから、III価が各集団で維持されることにより連続した種内異数体が生じたことが明らかになった。 3.酵素多型分析 ベニイトスゲ、チャイトスケ、イトスゲ、ケスゲの4分類群において、6-Pgdで遺伝子重複が観察された。これらは、NJ法による系統樹からも、よいまとまりを示し、この4分類群が分化する過程で、遺伝子の重複が生じたことが明らかになった。また系統樹より、染色体数2n=56〜61を持つ分類群から2n=68〜84の高次の染色体数を持つものに分化したことが推定された。
|