本研究の目的はヒト乳幼児の二足歩行獲得過程を力学的に調べ、ヒト個体発達のメカニズムを具体的に知ることにある。このために5歳齢までの乳幼児39名(男 21 名、女 18 名)の独立歩行136回の測定を行った。とくに独立歩行獲得過程を縦断的に調べるために、2歳未満の15名(男10名、女5名)について1から数ヶ月おきに継続した測定を、独立歩行92回、つかまり歩行16回測定した。 実験手段としては歩行台に埋め込まれた2台の床反力計、ビデオカメラ、三次元運動解析システムの同期記録により、運動と力との測定を行った。また超音波断層撮影による脚部筋厚測定も行った。 これまでに乳幼児歩行の時間、運動姿勢、床反力についてとくに1歳齢におけるパタンを抽出し、その加齢変化と成人歩行との違いを示した。これらのほとんどは今まで発表されていないものである。その他に新発見の重要な知見として次のようなものがある。 多くの運動学的、運動力学的計測値において、乳幼児歩行は一様に成人歩行へと近づく発達をするわけではない。1歳初期の発達は急速であり、1歳後期には緩やかに発達して成人へと近づいていく。 歩行開始からの経験期間は歩行習熟へ影響を与える。同一暦齢で比較すると、歩行経験の長い方が成人に近い歩き方をする傾向にある。歩行経験の月数ごとにまとめてみると、歩きはじめから約6ヶ月までは急速に発達し成人歩行に近づくことがわかった。
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