本課題の基礎的データ収集として、ヒト以外の霊長類の距骨下関節の運動特性を定量的に分析した。ニホンザルの解剖標本を内反位・外反位に動かし、距骨の移動量と移動方向を3次元座標測定装置で記録した。解剖標本は足部の皮膚・筋肉を除き、距骨の運動を妨げないように踵骨底部を固定し、外反位と内反位で距骨滑車上のランドマーク3点を計測した。点Aは距骨滑車外側縁後端、点Bは同前端、点Cは距骨滑車内側縁前端にとった。座標系は足底面をXY平面とし、踵骨から第四中足骨の骨頭を通過する中心軸をX軸に、原点はこの軸が踵骨隆起の後面を貫く部に定めた。=3点から3つの角度を計測した。第1は距骨の外転角で、XY平面上に点ABを投影して計測した。第2は距骨の背屈角でXZ平面上に点ABを投影して計測した。第3は距骨の内旋角で点BCをYZ平面上に投影して計測した。計測は8個体で3回ずつ行った。 外転角、背屈角、内旋角の平均値はそれぞれ3.2、4.8、5.3度であった。外転角に対する背屈角と内旋角の比は平均値より計算すると1.5と1.7である。ヒトについては外転角、背屈角、内旋角がそれぞれ5度、10度、20度という報告がある。外転角に対する背屈角と内旋角の比を比較すると、ニホンザルでは内旋角が相対的に小さいことが明らかになった。 この内旋角の違いを関節形状の違いと対応させて分析した。ニホンザルを始めヒト以外の霊長類では足背から見たときに踵骨の後関節面の長軸が踵骨長軸と平行に近い。このため、内旋が特に外転と背屈に対し優勢になるということはない。ヒトの場合では、踵骨の後関節面が踵骨長軸に対し近位内側から遠位外側方向に偏位する。そのため、距骨の外転、背屈、内旋の3つの成分のうち内旋が、ニホンザルに比べると相対的に優勢になっていると考えられる。
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