平成9、10年度、内反・外反にともなう距骨下関節の動態を現生霊長類において調査し、種間比較により骨格形態と運動特性との関連を分析した。平成11年度はこれまで得られた知見を元に、中新世東アフリカの化石ヒト上科の踵骨の形態を現生霊長類と比較することで、どのような運動適応を果たしていたかを明らかにした。分析に用いた化石ヒト上科霊長類は約1800-1900万年前のプロコンスル・ニアンゼィ、プロコンスル・マジョール、約1500万年前のナチョラピテクスである。踵骨の全体的な形態に関してはこれらの化石類人猿はいずれも現生類人猿よりはむしろ古いタイプの真類猿に近い運動適応を果たしている。しかし、距骨下関節に関して言えば、現生の大型広鼻猿が持っているような屈曲伸展を中心とした内反外反運動をするのではなく、回旋・内外転成分も内反・外反運動に貢献していたと考えられる。特徴的な点としては、後距骨関節面は後部と前部が平坦で中間部が顕著に彎曲している。このことから、内反・外反運動に関して距骨下関節は最大底屈と最大背屈の位置で安定し、中間的な位置をとることはあまりなかったと考えられる。おそらく距骨下関節自体は足の姿勢に対応してどちらかの位置をとった後は不動となり、横足根関節、中足基節関節、指節関節が代償的に機能したと考えられる。これに比べれば、現生のオナガザル類は関節の移動域自体が縮小し、狭い範囲での安定性を向上させるように進化している。大型類人猿では後距骨関節面の長軸が踵骨の長軸と斜めに交叉する用に変化し、内外反運動での回旋成分を相対的に大きくすることで、足の運動能力と安定性を向上させているが、こうした適応は中期中新世より新しい時代に獲得されたと考えられる。少なくともこれらの化石類人猿足根骨に地上運動に特殊化した特徴は認められない。
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