地上性適応は人類とアフリカ類人猿に認められるが、どの時代に地上性に適応したかという問題は未だ決着していない。これを検討するため、中新世ヒト上科霊長類の足根関節の分析を行った。内反・外反にともなう距骨下関節の動態をCTを用いて現生霊長類において調査し、種間比較により骨格状態と運動特性との関連を分析した。さらに、約1800-1900万年前のプロコンスル・ニアンゼィ、プロコンスル・マジョール、約1500万年前のナチョラヒテスク、および8種の現生真猿類の踵骨を対象に後距骨関節の三次元的形状をCTによって計測し、関節の運動特性の分析を行った。後距骨関節面のプロポーション、投影平面上の主軸に関していえば、化石類人猿はいずれも現生類人猿よりは、古いタイプの真猿類に近い運動適応を果たしている。しかし、距骨下関節に関して言えば、現生の大型広鼻猿が持っているような屈曲伸展が主要な運動成分となる内反外反運動をするのではなく、回旋・内外転成分も内反・外反運動に同程度貢献していたと考えられる。この点は現生狭鼻猿と共通である。これらの化石類人猿の特徴的な点としては、後距骨関節面が弱く彎曲した後部と平坦な全部の関節面を持ち、中間の移行部が強く彎曲している。このことから、内反、外反運動に関して距骨下間接は底屈か背屈の位置で安定し、中間的な位置を取ることはあまりなかったと考えられる。また、関節面の後部では内側への勾配が後方への勾配に比べて顕著であり、平坦性が強い。したがって、底屈に伴って大きな外旋、外転成分が発生したと考えられる。これに比べれば、オナガザル科は後距骨関節の短縮により可動範囲自体が収縮し、安定性を向上させている。これはオナガザル類の祖先の生活型が半地上であったことと関係している。チンパンジーでは後距骨関節面の前部と後部の中間部がなめらかな彎曲を示し、明らかな移行部は存在しない。また、後距骨関節面の長軸が踵骨の長軸と斜めに交叉し、内外反動での回施成分を相対的に大きくしている。化石類人猿の距骨下関節は現生類人猿ほどではないものの、広い外反・内反の運動範囲とそれぞれの位置での関節の安定性を保っており、地上運動に特殊化していたとは考えにくい。チンパンジーのような距骨下関節が化石類人猿にみられる状態から進化した可能性は考えられるが、それが地上運動に適応的な関節の形態を経て現れたとは考えにくく、チンパンジーの地上性適応はいわゆる懸垂姿勢・運動適応を獲得した頃に現れたと考えるほうが妥当である。したがって、人類・アフリカ類人猿の系統が地上性適応を獲得した時期は中新世中期までは遡らないと考えられる。
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