研究概要 |
希土類化合物での磁性において、磁性の担い手である4f電子間の間接的なRKKY相互作用と強い磁気異方性が重要な役割を果たしている。その結果、特徴的な複雑な長距離磁気秩序が実現する。特に、希土類と遷移金属の化合物の場合、3d電子の磁気モーメントが4f電子の位置につくる分子場の影響により、その磁性は実にバラエテイーに富んでいて興味深い。そこで本研究は、中性子回折実験を用いて、広範囲の希土類-遷移金属化合物の磁気構造の磁気構造を系統的に明らかにしていく事で、希土類-遷移金属化合物の磁気的基底状態を理解する事を目的としている。 まず平成9年度には、本補助金を用いて、日本原子力研究所東海研究所の改3号炉に建設された高能率粉末中性子回折装置KPDの改良を行った。第一に試料温度のコントロール環境の改善を行い、自動温度コントロール測定を飛躍的に向上させた。これにより、短時間で多数の温度での測定が可能となり、磁気転移点、構造転移点付近での挙動を詳細に明らかにする事ができるようになった。また、希釈冷凍器、超伝導マグネットなど大重量アクセサリーを搭載するために、耐荷重の大きい中性子実験用X-Yステージを作成した。この結果、近年の物性実験に強く要求されている極端条件下での測定が可能となり、KPDの応用範囲と重要性がさらにます事となった。本補助金による改造により、KPDは希土類-遷移金属化合物にかぎらずさまざまな分野で重要な成果をあげる事ができた。 KPDで平成9年度に得られた重要な結果をしめす。まず、層状ペロブスカイトLa_<0.5>Sr_<1.5>MnO_4での結晶構造を決定し、O-Mn bond lengthの変化がこの系の物性に与える影響をあきらかにした。また、四重極秩序状態が実現する系として、DyB_2C_2,DyB_6の磁気構造、結晶構造決定を行い、その四重極秩序のメカニズム解明に対し、重要な知見がKPD実験結果から直接得られている。また、強磁性相互作用と反強磁性相互作用の共存する興味深い系である(Fe_<1-x>Mn_x)_3Gaの磁気構造と組成の関係もあきらかにされている。それらの成果は1997年夏のICM,ICNSなどの国際会議で報告されている。また、物理学会、結晶学会にもKPDの結果を用いた多くの講演がなされた。
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