本年度はミリ波に重点を置き、まず初めに今後の実験計画の上で不可欠となるミリ波測定システムの作製を行い、次に新しい電磁波領域で液晶材料を利用する立場から次の二つの検討を行った。 第一は、応用上最も重要である液晶材料の物性値を明らかにする試みである。この場合、電磁界のモードが明確である導波管を使う方法が有効と思われる。そこで、液晶を封入した測定用の液晶試料の形状や作製法について検討した。特に、導波管セルにおける液晶配向処理法及び封入法が通常の液晶セルとは著しく異なり、解決しなくてはならない大きな問題であった。これらの試みの結果、5cm程度の導波管封入試料において磁界を印加することにより液晶分子を再配向させると、ミリ波の透過率が数倍程度大きく変化する事が確認された。複素誘電率を求めるためにはインピーダンスの定量的な測定が必要と思われる。本年度確立した測定用液晶試料の作製法に基づき、今後種々の材料・条件での評価を行う予定である。 第二の立場として、ホーンアンテナシステムを用いて通常の液晶セル構造を利用する可能性について検討を行った。ガラス基板はミリ波に対して高い透過率を有することから、通常の液晶セルの構造・作製技術がそのまま利用できる可能性がある。ところが実際に測定を行ってみると、液晶の駆動に通常用いられているITO透明電極がミリ波の透過率を大きく低下させることがわかった。そこで、スリットを多数並べた電極構造を適用することにより、高い透過率を維持しながら液晶の駆動を行う液晶セル構造を提案した。実際の測定においても、数ボルト程度の低い印加電圧によってミリ波の透過率が大きく変化する様子が確認された。セル構造の最適化は今後の課題として残されたが、本手法により実際に種々の液晶デバイスとして応用可能なデバイス構造の指針が明らかになった。
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