本年度は、ミリ波・サブミリ波領域における実際的な液晶デバイスの可能性を探る試みにおいて新たな成果が得られた。基本的な立場として、液晶が有する屈折率等の大きな可変特性を制御デバイスとして利用する為には、少なくとも用いる波長領域で素子透過率が高いこと、そしてある程度の応答速度を有することを目指す必要がある。このような観点から、主に液晶セルの最適な構造について検討を行った。 サブミリ波帯では難しいが、これまでにミリ波帯では通常のガラス基板セルが使用可能であること等を明かにしてきた。そこで本年度は、ITOガラスを使った液晶セル作製技術をそのまま適用し、昨年度構築したホーンアンテナシステムを用いて50GHzにおける素子特性の評価を行った。ここで、通常の平板電極構造はミリ波の透過率を極端に低下させてしまうため、ストライプ状電極構造を用いたミリ波用液晶セルを作製した。セル構造としてストライプ状電極の周期と間隔が最も重要である。ミリ波の透過率が高い条件と、液晶を駆動する為に有効な電界分布を生じる条件は、必ずしも一致しない。そこで本年度は、これらのセル構造の最適化を行うと共に、印加電圧に対する透過率変化のメカニズムについて検討を行った。得られた成果の一部については、本年度開催された国際会議で報告を行った。 一方、このような液晶セルでは可変量を大きく取る場合、応答速度が極めて遅くなる問題がある。そこで、さらにサンドイッチ型の新たなセル構造を提案し、本年度はその基礎動作について確認を行った。その結果応答速度が非常に改善され、電圧制御型デバイスとしてより実用的な素子構造の設計方針が明かとなった。
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