本年度は、具体的なデバイス応用の可能性を検討する立場から昨年度提案したサンドイッチ型液晶セル構造の最適化を行うと共にミリ波の制御特性を調べた。まず、薄いITOガラス基板を用いて積層する事により相対的に液晶層の割合を増加させる方法により、ミリ波透過率の制御特性において5〜6%程度まで改善効果が得られた。液晶セル基板を薄くすることにより特性が向上する事を確認したが、機械的な強度や実際の扱い易さを考慮すると新たな素子構造が必要と考えられる。そこで、液晶を駆動するための電極板のみを用いてセルを構成する新たな素子構造を提案した。この結果、これまでとほぼ同じ大きさ及び伝搬長を有する液晶セルにおいて、60%程度の高い透過率と印加電圧による30%程度の極めて大きな変化特性が得られた。液晶材料は、ミリ波に対して吸収と位相の両者に大きな異方性を有する事から定量的な考察は今後の検討課題として残された。しかし、本研究で提案する新しい液晶素子構造によって挿入損失の低下と大幅な可変特性の向上が得られることが明かとなった。 また、適当なスペーサを用いて液晶層を三角形に構成する事によりプリズムセルを作製した。この場合には、わずかではあるがビームの偏向動作が確認された。実験ではITOガラスによるセルを用いたが、前述の新しい素子構造を導入することにより特性が大幅に改善できるものと思われる。一方、ミリ波で確認した新しい素子構造はサブミリ波領域でも有用と思われるが、提案する素子を更に小型化するためには新たな素子作製手法を開発する必要がある。そこで、ポリマーと液晶の複合構造に注目し、新しい液晶セル作製法として利用する試みを行う事により、種々の基礎データが得られた。
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