高温超伝導体の持つ高い異方性は、これらの系の超伝導ゆらぎを増大させ、磁気相図に多大の影響を与える。そこで、キャリャ量を精密に調製して異方性を制御した単結晶試料を作製し、直流磁場下での直流抵抗率、交流帯磁率などを測定した。その結果、交流帯磁率の基本波成分および第三高調波成分に特徴的な構造が観測され、直流帯磁率測定、抵抗率測定の結果との比較により、これらの構造が磁束格子相ないしは磁束グラス相から磁束液体相への相転移に対応していることが分かった。特に、交流磁場の周波数依存性を調べた結果、高温低磁場領域では周波数依存性が弱く、低温高磁場領域では周波数依存性が大きいことが分かり、前者の磁束融解転移が1次相転移に、また後者の磁束グラス転移が2次相転移であることに対応している。 さらに、直流抵抗率測定から決定した相転移点の温度依存性は異方性パラメータでスケールされることが分かり、直流帯磁率の結果と良く対応する。したがって、磁気相図の高温低磁場領域の振る舞いは、主に異方性パラメータによって決定されることが分かる。これに対して、抵抗率測定から決定した磁束グラス転移点は異方性パラメータではスケールされず、同程度のキャリャ量を持つ試料でも試料依存性が大きい。これは、磁束グラス転移が不純物の量に敏感であるためと考えられ、磁気相図の低温高磁場領域での振る舞いは異方性パラメータだけでなく、不純物濃度に大きく依存することが分かった。 一方、実用的な観点から重要な大型試料のパルス磁場下での磁化のされ方を詳細に調べたところ、静磁場のもとでは無視できる粘性力がパルス磁場下では大きく影響すること、また、その振る舞いはパルス波形の形状に敏感であることなどが分かった。
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