本年度は平成9年度及び平成10年度の成果に基づき、3次元的に空間制御されたフラーレン混合LB膜を作製し、これを「分子ふるい」に応用した。具体的には、水晶振動子電極上に分子間隔制御したLB膜を累積し、分子サイズの異なるガス分子(αピネン、リモネン、βカリオフィレン、シトラール、n-オクタデカン等)のセンシングを試みた。センサとしては、1ngのガス吸着で、1Hzの周波数シフトが起こるように回路パラメータを設定した。その結果、分子量が小さいほど、また1分子あたりの占有体積が小さいほどセンサ応答は増大した。これは小さい分子ほどLB膜中深いところまで入り込む機能が構築されたことを示す。センサとしての耐久性を上昇させるため、さらに、各層のLB膜に生体細胞の裏打ちタンパクの構造を模倣した、ポリマーによる裏打ち構造を組み込んだ。その結果、(1)センサの識別能力(2)温度変化時における安定性、(3)センサ感度は、いずれも著しく上昇した。特に、200層の分子間隔制御LB膜においては、センサ応答は、従来の100〜200Hzから7000Hzへと一気30〜70倍改善された。こうした高感度センサの実現は、3次元的に空間制御されたLB膜の高度な秩序性を示す一つの証拠といえる。 また、ガス分子の吸着のメカニズムに関しては、スペーサとして用いたフラーレン分子よりもむしろ、LB膜の疎水基に吸着するものが多いことが明らかになった。これは、生体膜の基本構造そのものが匂いの受容に関与しており、特異的受容タンパクがなくとも匂いの識別が可能である、という学説とも一致した。したがって、本研究の実験は、匂いの識別に関してきわめて簡単化した人工脂質膜系モデルの構築に成功したともいうことができる。
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