研究概要 |
基板に抵抗率10〜20Ωcmのp型シリコンを用い,これを弗酸・エタノール混合溶液中において陽極化成し,さらにエッチングして多孔質シリコン試料を作成した。これを塩化エルビウムのエタノール飽和溶液中に浸したあと,窒素雰囲気中で800℃、5分間のアニールを行い,添加エルビウムの活性化を行った。質量分析測定によって,エルビウムは2μmの深さまで約3×10^<19>atoms/cm^3の濃度でほぼ均一に添加されていることが分かった。 熱処理後のエルビウム添加多孔質シリコンに高速短波長のパルスレーザー光を照射して光励起発光を生じさせ,可視域および1.54μm波長域について時間分解発光分光測定を行った。その際に,高速短波長のパルスレーザー光源としては,十分な高速性と照射強度を確保するため,パルス幅が〜5ns,可視光(波長532nm)および紫外光(波長355nm)の出力が〜100mJ以上という高調波発生YAGレーザーを用いたが,これに駆動電力を供給する高調波発生YAGレーザー電源は設備備品として購入して使用した。 得られた発光時間応答特性から,エルビウムからの波長1.54μmの発光は,母体である多孔質シリコンで生成された電子・正孔対のエネルギーがエルビウムイオンへ伝達される,という間接励起によることが示唆された。そこで,電子・正孔対とエルビウムイオンとの間のクーロン相互作用によって形成される発光中心(仮想励起状態)を考え,これを介して励起エネルギーが伝達されるというメカニズムを想定して励起緩和過程のレート方程式を解くと,時間分解発光分光の実験結果と理論値との間に極めて良い一致が得られた。
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