本研究は、プラズマにより生成した水素ラジカルの反応性を用いてシリコン基板上に高融点半導体である立方晶炭化珪素(3C-SiC)の結晶成長やエピタキシャル成長を低温で実現することを目的としている。大口径ウエハーが得られるシリコン基板上に成長させることで高温半導体デバイスやX線リソグラフ用マスクメンブレンの実用化に結びつく技術を確立しようとしている。 平成9年度、三極管型プラズマCVD法およびハイブリッドプラズマCVD法により原料に有機珪素化合物の一種であるジメチルクロロシランおよびジメチルシランを用いて1000゚C程度までの低温プロセスでの結晶成長を試みた結果、低温での結晶成長には三極管型プラズマCVD法が有効で、本成長法により600℃以下の低温で結晶SiCの成長を実現し、この結晶成長が成長時の基板表面近傍の低いプラズマ空間電位と1eV以下の低電子温度条件下で実現することを見出した。さらにプラズマ空間電位の高周波変動振幅を2V以下にまで低減させることで13.56MHzの高周波に追随すると考えられる水素イオンのシースでの加速を低減させ、結晶性の向上を実現した。また1000℃においてSi(100)、(111)基板上でエピタキシャル成長に成功している。三極管型プラズマCVD法を用いることで同じ温度を用いた熱CVD法の場合に比べより良好な表面平坦性を得ている。 平成10年度、科研費補助金で購入したターボ分子ポンプの高い排気能力を利用してジメチルシランの水素希釈率、反応時圧力を広範囲に振ることで水素希釈率300以上、反応時圧力0.3Tonにて最も結晶性・配向性に優れたエピタキシャル膜を得た。また同時にSi(100)基板上で1×10^9dyne/cm^2以下の残留応力値を、熱CVD法で常に大きな残留応力の発生するSi(111)基板上においても、水素希釈率を変えることで圧縮応力から引っ張り応力まで変えられ、残留応力の低いエピタキシャル膜を得られることが分かった。
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