研究概要 |
フェライトとしては低損失なイットリウム・鉄・ガーネット(YIG)の膜でも静磁波包絡線ソリトンの伝搬を考えると,YIGといえども十分低損失とは言えない。そのため,静磁波ソリトンを実験的に観察するには適当な条件を選ぶ必要がある。限られた寸法のYIG膜試料において,入力パルスが速やかに変化するためには分散効果が強いことが望まれることがわかった。ソリトンを形作るためには分散効果を打ち消すために,非線形効果も大きくする,すなわち入力パワーを増やすことが重要である。また,このことは等価的に媒質の損失が減少したようにみなすことができることを意味する。ただし,静磁波がソリトンとしての振舞いを示す時間も左右される。YIG膜の損失により,パルスの振幅が減少するが,その減少の速さが線形動作のときの倍になることもあり,静磁波ソリトンが摂動理論で示唆されたようにふるまいことが起こることを明らかにした。 静磁表面波では,YIG膜だけの遅延線においては分散効果と非線形効果の符号が同じであるために暗いソリトンにしかならない。YIG膜に導体板を近づけることにより,分散効果の符号を逆にすることができ,明るいソリトンになることがわかった。また,YIG膜表面に導体格子を設けても分散効果の符号を変えることができる。 連続なマイクロ波入力に対して,単にマイクロ波スイッチを開閉して矩形パルスをつくると,入力パワーをある程度以上大きくしても,急激な変化をしているところ,つまり,パルスの立上り部分と立ち下がり部分に鋭い突起が発達し,多ソリトンが干渉して非常に鋭い単峰性のピークが観測されないまま,伝搬損失のために消えてしまう。そのため,1-ソリトン的なふるまいをさせて,パルスの圧縮率が3倍程度にしかならない。しかし,入力パルス波形を急激な変化のない滑らかなものにすることにより,10倍以上のパルス圧縮率が得られる可能性があることを明らかにした。
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