研究概要 |
1. 昨年度に引き続き,量子ノイズが空間的にランダムに分布するという統計的性質を取り入れて改良した最大エントロピー(ME)画像修復法を,弱位相物体の大きくフォーカスをずらした電子顕微鏡(TEM)像に適用してその効果を調べた.もとのTEM像の高い空間周波数領域で起こっていたコントラストの反転が,ME修復により正しいコントラストに復元され,その結果として解像度が向上した.さらに,コントラスト伝達関数の零点近傍の空間周波数成分も,ME修復の非線型性により復元されることが分った. 2. 弱位相近似の成立しない結晶試料に対してME修復法を用いるためには,TEMの結像過程をコンピュータ上で再現して,試料直下の電子の波動関数から像強度を計算する必要がある.この計算をME修復プログラムに組み入れるために,C++言語を用いて像シミュレーションのプログラムを開発した.得られたシミュレーション像は標準的なプログラムの結果と一致し,開発したプログラムの動作確認ができた. 3. 従来,ME修復法は強度すなわち正の実数のみを取り扱うという前提のもとに構築されてきた.しかし,結晶の構造解析を行うためには,複素数である電子の波動関数を求める必要がある.そこで,複素振幅を扱えるようにME修復法を拡張し,計算機アルゴリズムの開発を行った.その結果,干渉性の高い結像の場合について,拡張したME修復法を高速フーリエ変換を用いて実現するアルゴリズムを見出した.このアルゴリズムをより実用的にするためには,干渉性が比較的低いときの結像理論を取り入れる必要がある.
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