原子力間顕微鏡を使って試料表面の材質や原子の種類を識別する装置として、カバランス法を用いた原子間力分光装置の試作を行うことが目的であった。力バランス法による正確な力曲線の測定は、世界の幾つかの研究グループで行われているが、いずれも成功に至っていない。本研究では、制御理論に基づいたシステムの安定解析を行い、成功に至らない主な原因が制御系の応答速度の遅さにあることを明らかにした。市販のAFM用マイクロカンチレバーを用いた場合、100MHz程度の超高速制御が必要になることが分かった。100MHzの高速アンプは、ディジタル制御で実現するには速すぎ、アナログ回路を用いても、アクチュエータの応答速度の限界や広帯域化によるノイズ増加のため、実際に使用できない。 そこで、カンチレバーの減衰係数を増加させることで、制御系に必要な周波数帯域を低くすることを考えた。様々な環境やカンチレバーの材質などについて検討を行った結果、高分子材料、とくにポリイミドを用いて作成したレバーが遊離であることが分かった。ポリイミド製のマイクロカンチレバーを実際に製作し、その基本特性を調べた結果、ポリイミドの高い内部減衰効果により、1MHz程度の帯域をもつアンプで制御が行えることが分かった。また、ポリイミドの高い耐熱性は、超高真空中にするための加熱処理にも耐える利点がある。 本研究では、ポリイミドを用いた探針付きマイクロカンチレバーを製作し、1MHzの応答速度をもつPID制御回路の製作を行った。しかし、実際に超高真空中で力曲線を測定するに至らなかった。今後は製作したレバーや制御回路を用いて、力曲線の測定を行っていきたい。
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