クラスターインプランテーションの研究にとって、最も重要なことは高速クラスターイオンのシミュレーションに適した時間発展型2体衝突近似によるコードDYACATならびにDYACOCTを完成すると同時に低速クラスターイオンのシミュレーション用の分子動力学方法によるシミュレーションを確立することである。現在、クラスターインプランテーションの実験例はあまり報告されていない。したがって、できるだけ素過程に関連した物理現象をコードを用いて再現することにより、信頼性を高めなければならない。そのためにチャネリング、表面散乱、スパッタリングの実験などをシミュレーションしてきた。そしてこれらの実績を踏まえて、クラスターインプランテーションの計算機シミュレーションを実行した。 比較的エネルギーの低い(原子あたり数100eV以上)クラスターイオンの照射による飛程は露払い効果により、単原子の飛程より数倍大きい。そしてこの露払い効果はクラスター原子の質量と標的原子の質量の比ならびにクラスターサイズに強く依存している事が判明した。一方、比較的エネルギーの高い(原子あたり数keV以上)クラスターイオンの照射による飛程は逆に単原子の飛程より短くなることがわかった。これはクラスター構成原子同志の散乱に起因するクラスター誘起ランダム効果ともいうべきものであり、その特徴はクラスター原子の質量と標的原子の質量の比によらず、クラスターサイズだけの関数であることが判明した。これらクラスターの深さ分布は飛程を延ばす露払い効果と飛程を短くするクラスター誘起ランダム効果の競争過程できまることを明らかにした。
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