クラスターイオンビーム蒸着では加速電圧が表面拡散エネルギーに移行する機構が重要である。低速クラスターと固体表面との相互作用の描像は以下のように理解される。まづ、クラスターはほぼ球形であるためにクラスターの先端が衝突すると中央部分に高密度領域が形成される。高密度は高圧力を生みだすので、それがある臨界値を超えると側端の原子弾き飛ばす。臨界値に達した時点でクラスターの高密度領域が表面上にあるか表面下にあるかによって違いがでる。Cu(111)面の場合は弾き飛ばされたクラスター銅原子がまわりの結晶の銅原子を押し退けてクレータを作り、Pt(111)面の場合は自分自身が表面をマイグレートする。 低速クラスターを固体表面に照射すると、必ず高密度ゾーンがクラスター内に形成されることが明確になったので、この高密度ゾーンがクラスターの飛程に及ぼす影響を調べた。Au55をCu基板にかなり高速から数eV/atomのエネルギーで照射した。高速クラスターに体してはDYACATコードを用い、100eV以下はMD計算をした。DYACATとMD計算は100eV以下でその差が見られた。すなわち、低速では多体効果が無視できないことがわかった。面白いことに30eV以下の単原子のCuの照射では、入射イオンは結晶表面に支えられて、固体内に侵入できないのに、クラスターイオンは侵入していくことが観測された。すなわち、低速ではクラスターのエネルギーは原子あたりより全エネルギーで寄与することが判明した。 反射したクラスター原子の角度分布に及ぼす高密度は高密度形成の直後の反射したクラスター原子の角度分布に顕著に見られた。とくに、横方向に多くの原子は飛び出すことが判明した。
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