本研究代表者らが考案した放射線検出器の位置有感化のための独自の方式(「荷重結合容量バックギャモン法(MBWC法)」)に基づく2次元位置有感比例計数管を、平板結晶と組み合わせ、構成されるX線結晶分光器の特性について研究した。得られるX線エネルギースペクトルの分解能を、結晶と位置有感検出器の距離を系統的に変化させて測定したところ、距離に対する非線形な振舞いを見出した。一般に、この距離が、X線源と結晶の間の距離にほぼ等しい時、エネルギー分解能は最も良くなり、そこから離れた条件では分解能は劣化した。この現象は、分光結晶でブラッグ反射された同一エネルギーのX線が、結晶のモザイク構造によって、近似的に収束を起こす事によると解釈される。4種類の分光結晶(LiF(200)、Si(111)、グラファイト、Ge(111))について、エネルギー分解能と結晶・検出器間距離の関係を調べた。上記の「モザイク収束」が最も顕著に観測されたのはグラファイトである。分解能が最も良くなった条件では、公称のモザイク幅0.4°にもかかわらず、鉄のKα1とKα2のピークが分離できた。この点から両側に離れると、モザイク幅から予想される傾きで直線的に分解能が劣化した。このグラファイトに対する結果は、全ての結晶の中でずば抜けて高いX線反射強度が、今回のような分光器形態では、かなり良いエネルギー分解能と両立する、という点で重要である。他の結晶についても、反射強度を高める表面処理をおこなったものについては程度の差はあれ同じ現象が観測された。今後、X線分光結晶の反射強度を高めるための表面処理の方法について、より広い可能性の探求が望まれる。
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