研究概要 |
平成9年度には電子分光器の製作を行った。当初、同心球型静電分光器の製作を計画していたが、電子線を取り込む立体角を十分に大きくすることが困難と判明したため、電子線の立体角が比較的自由に選択できる円筒鏡型静電分光器を設計・製作した。平成10年度には高エネルギー加速器研究機構・放射光研究施設のBL14Aにて、電子線検出用アバランシェ・フォトダイオード(APD)の性能評価を行った。電子線検出において表面不感層となる二酸化シリコンの厚みが異なる数種類の素子をテストし、エネルギー分解能の優れた素子を見出した。ただし、電子分光器に不具合がみつかったこと、^<197>)Auの軌道電子遷移による核励起(NEET)現象の時間分光実験を計画していたSPring^<-8>ビームラインの立ち上げが遅れ、実験が実施できなかったことにより、平成10年度末までには本研究の成否を報告できる状況とならなかった。その後、SPring^<-8>ringで1999年4月および5月にビームタイムが配分され、電子分光器を用いずに電子線用APD素子による^<197>Auの内部転換電子線の直接検出を最初に試みた。これは、エネルギー選別せずに内部転換電子線の検出効率を最大にして測定すること、および電子散乱による即発パルスの検出器への影響を調べるためであったが、結果として研究の目的であるNEET現象を観測することに成功した。現在、この結果をまとめ発表しつつある。観測結果から求めた^<197>AuのNEET確率は電子線励起法によってこれまでに報告されていた値(H.Fujioka at el.,Z.Phys.A315,121(1984))を3桁下回るものであるが、計算値(H.V..Tkalya,JETP 78,239(1994))により近い。今後、直接検出法による実験を展開するとともに電子分光器の評価と分光器によるエネルギー弁別を利用する実験を行う予定である。
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