研究概要 |
本研究は,近年様々な分野で用いられている柔軟構造物の単純なモデルである片持ちはりの各種物理パラメータを正確に求める同定問題について研究を行った.ここでは,一般に求められていないはりの振動減衰に関するパラメータと材質の経年変化や加工硬化などによって工学便覧の掲載値と異なってくる材料の物理パラメータ(ヤング率)を全て同時に同定するアルゴリズムの構築を行った. 研究を行うにあたって,初年度は簡単のため(断面形状が均一な)片持ちはりの有する2種類のパラメータ(一般的に未知な内部減衰係数と非破壊的手段を用いて求めることが難しいヤング率)を非破壊的に同時に同定するアルゴリズムを確立した.ここで構築されたアルゴリズムについては,実用性を更に高めるべく時々刻々計測されるはりの振動データを用いて同定するためのオンライン化を行うとともに,汎用性を高めるために断面形状が変化する片持ちはりの有する(空間方向にその値が変化する)物理パラメータについても同定できるよう改良を行った. しかし地上で扱われる柔軟構造物に対しては,空気による抵抗を考慮することは必然的な問題になってくる.つまりこのときは上記2種類のパラメータだけではなく空気減衰定数を含めた合計3種類の物理パラメータを求める必要が生じてくるので,2年目はこれらを同時に同定するアルゴリズムについての構築を行った.この場合オーダーの著しく異なる性質の似たパラメータ(2種類の減衰パラメータ)を同時に扱わなければならず,これらを分離して正確な同定値を得ることが大変難しくなるが,この問題についても検討を行って解決することができた.最終年度(3年目)ではアルゴリズムのオンライン化と実験,また断面が不均一な片持ちはりに対する同定アルゴリズムの構築を行った. 本研究で提案した物理パラメータの同定法は,直接に計測できない物理量を動的な測定データから間接的に求める数理アルゴリズムを構成する方法であり,直接計測器により測定するハードな方法に対して,このような手法をソフトセンサー(soft sensor)とも呼ぶべき新しい考え方に到達した.
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