研究概要 |
耐疲労特性を兼ね備えた共析鋼極細線の開発指針を得ることを目的として、疲労強度に及ぼす諸因子の影響を明らかにするための実験を行い以下の結果を得た。 1. 両振および片振疲労強度は伸線加工ひずみの増加(0-3.8)とともに800MPaまで単調に上昇する場合、製造条件によっては加工ひずみ2.5でピークを持つ場合などが見られた。フェライト鋼では増加の程度は小さく単調に上昇した。疲労強度は線径の減少とともに上昇するが、ラメラ間隔(0.01〜0.02μm)に依存しない。 2. 加工ひずみに伴い、観察された高密度転位やラメラ間隔の減少と関連して表面の硬さおよび残留応力はHv=520および約1000MPaまで大きくなる。疲労に伴う硬さの増加は加工ひずみの大きなものの方が大きい。 3. ブルーイングによる硬さの上昇は300℃でピーク(Hv=650)となる一方,引張残留応力は温度の上昇とともに低下し,500℃ではほとんど消滅する.ブルーイングによって疲労限度は上昇し、400℃で最高値900MPaに達する.この温度はひずみ時効および組織回復と残留応力の緩和から定まったものと考えられる.ショットピーニングにより硬さは増加し、残留応力は1000MPaから-300MPaに大きく減少し、最も高い疲労限度1200MPaが得られた。 4. き裂はフェライト層に沿って、あるいは介在物を起点として発生・進展するが、パーライトコロニー境界で大きく方向を変える。疲労寿命に占めるき裂発生期間の割合は伸線加工によって増加する。 5. 下限界応力拡大係数幅は加工ひずみの増加、したがってパーライトコロニー寸法の減少とともに粗さ誘起き裂閉口率の減少によって低下する。また、加工ひずみの増加とともにパリス域のき裂進展抵抗は上昇し、ここでのき裂進展特性の勾配を示す“m"値は減少する。
|