研究概要 |
アモルファスシリコン(a-Si)太陽電池モジュールは,薄膜をフレキシブルフィルムに多層配置した構造を有しており,自由表面からの水素拡散が,積層薄膜界面の強度低下をもたらす懸念がある.そこで,本研究では積層強度の影響因子を評価するために,分子動力学法により積層薄膜を模擬した結晶方位の異なるα鉄2層構造に対する自由表面からの水素侵入のシミュレーションを実施し,界面の変形・破壊挙動および水素拡散に及ぼすひずみ,界面および温度の影響の解析を行い,以下の結論を得た.(1)膜生成応力や熱応力などに起因するひずみの存在は,水素拡散速度を著しく増加させる.(2)界面の存在により,水素の侵入が助長される.鉄と水素が強固に結び付く短距離ポテンシャルの場合には,水素は界面を避けて,α鉄のOサイトに選択的に侵入し,水素が侵入した領域の強度は相対的に上昇する.その結果として,界面強度は減少し,脆性的な界面剥離が生じる.一方,鉄と水素の結び付きが弱い長距離ポテンシャルの場合には,水素は原子間距離の大きな界面に選択的に侵入する.その結果として,界面の結晶構造は著しく乱され,界面近傍の強度が減少する.したがって,この場合にも延性的な界面破壊が促進される.(3)温度は水素侵入の重要な因子ではないが,温度上昇に伴い破壊形態はより延性側に遷移する.(4)したがって,積層薄膜の界面強度の上昇のためには,残留応力の緩和,応力集中係数の低下とともに自由表面からの水素侵入の防止が重要である.
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