研究概要 |
各種熱産業,工場などから排出される大量で低温度レベルのエネルギーの利用法の一つとして,形状記憶合金をエネルギー変換素子として利用する動力回収システムの開発のため,形状記憶合金の熱・機械的繰返しの基本的特性の評価を行った。用いた形状記憶合金は,安定性,耐食性,変態温度や疲労特性等の点で優れた性質を持つとされているTiNiCu合金であり,得られた新知見は以下のようになった。 (1)一定ひずみ条件下での昇温-降温試験では,マルテンサイト変態開始温度や逆変態終了温度はひずみが大となるほど上昇したが,マルテンサイト変態終了温度と逆変態開始温度はひずみによらずほぼ一定であった。(2)一定温度下での引張-除荷繰返し試験では,マルテンサイト変態開始応力は繰返しに伴って急激に減少し数サイクルで飽和した。一方,マルテンサイト変態終了応力,逆変態開始および終了応力は繰返しによらずほぼ一定であった。(3)熱・機械的繰返し疲労試験では,最大ひずみ量は1%以下では,加熱温度範囲が逆変態終了温度域にあたるため,加熱温度が高くなっても回復応力がほぼ一定となる領域が存在した。一方,最大ひずみ量が1%より大となると逆変態終了温度が高温域に移行するため加熱温度の増加とともに回復応力が大となった。(4)1サイクル当たりの有効仕事量は,最大ひずみおよび加熱温度が高いほど増加した。(5)単位体積当たりの生涯有効仕事量は,最大ひずみが4%以下ではひずみが大となるほど増加したが,ひずみが4%以上ではほぼ一定なった。(6)繰返し応力-ひずみ曲線の面籍で定義した回復ひずみエネルギーと寿命の両対数関係から,最大ひずみが4%以上では加熱温度買高いほど低寿命となったが,最大ひずみが3%以下では加熱温度の影響はなくほぼ一本の直線で評価できた。(7)回復ひずみエネルギーの1サイクル当たりの減少量で定義した散逸エネルギーと疲労寿命の両対数関係から,加熱温度,最大ひずみによらず散逸エネルギーが減少するほど長寿命となる一本の直線関係で評価できた。
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