研究概要 |
大腿骨は下肢骨の最も近位を占め,強力,重要な体重支持骨であるため,この部位の骨折は直ちに起立・歩行を不可能とする.また,この部位の骨折治癒には長期を要し,人体骨折中でも代表的な難治性骨折として知られている. 本研究では,転倒による大腿骨近位部骨折の発生原因を解明するため,68歳男性より死後摘出した左大腿骨をX線CT断層撮影し,大腿骨近位部の形状および海綿骨の骨梁構造を考慮した3次元有限要素モデルを構築した.高齢者の転倒では股関節から直接接地することが多いため,そのような転倒を想定して荷重や拘束条件を決定した.さらに,転倒時の体の姿勢が大腿骨に生じる衝撃荷重の方向に影響を与えるものとし,荷重方向を変化させた有限要素解析を実施した.また,骨粗鬆症が進行し骨梁構造の機能的低下が生じた大腿骨を想定した解析を行い,臨床的に見られる骨折型とを骨折危険度の比較をした.以上の研究により得られた結論は,次のようにまとめられる. 1)本研究で同定した荷重条件により応力集中が見られた部位は,臨床的にも骨折が見られる部位であった. 2)大腿骨に働く荷重方向を頚部軸方向に回施させた解析から,回施角の増加に伴い大腿骨近位部の骨折危険度は上昇したが,集中部位は頚部基部上方から頚部基部後方に移動し,外側骨折の発生が予測された. 3)骨幹軸方向に荷重を変化させた解析では,荷重方向が骨幹軸に垂直な場合は頚部基部上方での外側骨折が,頚部軸に対してほぼ平行な場合は骨頭基部上方での内側骨折が発生する危険度が最も高くなった. 4)骨梁構造の機能的低下を表現したモデルでの解析から,いずれの荷重方向でも骨梁構造を考慮したモデルと比較して,骨頭基部での骨折危険度の上昇率が高く内側骨折の発生の増加が予測された.
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