研究概要 |
大腿骨は下肢骨の最も近位を占め,強力,重要な体重支持骨であるため,この部位の骨折は直ちに起立・歩行を不可能とする.中でも大腿骨の近位部での骨折は高齢者に多くみられ,この骨折に伴う合併症の発生率,あるいは死亡率が高いため,重大な医療問題となっている. 本研究では,転倒による大腿骨近位部骨折の発生原因を解明するため,1)死後摘出した大腿骨を用いた転倒骨折の模擬実験,2)死後摘出した大腿骨に対するX線CT断層撮影画像に基づく有限要素解析,3)個体別有限要素解析システムの開発,の一連の研究を行った.得られた結論は次のようにまとめられる. 1) 89歳から95歳までの女性から死後摘出した大腿骨3本に静的荷重を負荷し,荷重方向と骨折発生の危険性との関係を検討した.その結果,ひずみの集中がみられた骨頭基部上方と頚部基部後方のうち,特に頚部基部後方(外側骨折部位)では荷重方向に対する回旋角の増加に伴い骨折の危険度が増加する結果を得た. 2) 77歳から94歳までの男女から死後摘出した大腿骨10本に対し,衝撃骨折試験を行ったところ,大腿骨頚部骨折の発生には圧縮応力が支配的な影響をもつこと,同一荷重条件においては形状と骨密度等の個体差によって骨折部位が異なることがわかった. 3) 65歳男性より死後摘出した左大腿骨をモデル化し,1)と同一の荷重条件で有限要素解析を行ったところ,骨幹軸周りの回旋角の増加に伴い頚部基部後方(外側骨折)における骨折危険度の増加が認められた. 4) 大腿骨頚部骨折の発生要因には,大腿骨形状の個体差が深く関与していると考えられることから,大腿骨形状を可能な限り少ないパラメータで表現する有限要素作成プログラムを開発した. 5) 4)のプログラムにより,モデル作成時間の大幅な短縮が可能になり,また大腿骨形状を任意に表現できることにより,個体差を考慮に入れた解析を行うことが容易になった.
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