本研究の目的は、形状記憶合金の擬弾性熱力学的現象において、複合負荷をバイアスとして用いる事により、複雑な任意の三次元位置決め材料システムの開発を試みる事である。この制御システムは、形状記憶合金の特性上、その応答速度には期待できないが、例えば地球・地域環境監視・管理、一日あるいは1年の大気温度や海洋温度変化などに対応した、極めてタフで安定、さらに高精度なロボット・制御システムなどに大きな役割を果たす可能性があると考える。この開発研究において最も重要な視点は、7つのパラメータ(一つは温度、他の6つは応力テンソルの独立成分)により制御される形状記憶合金の構成方程式の形式化である。すなわち、所望の動きを与えうる3次元位置決め制御材料システムを設計するためには基本要素材料となる形状記憶合金の精度の高い複合(多軸)負荷条件下におけ構成方程式が不可欠となる。このためとくに工業用形状記憶合金材料が多結晶構造をしていることを踏まえて、本研究の初年度からその特性を適切に取り入れる事のできるいわゆるメゾ力学的手法を採用し、形状記憶合金の複雑な挙動を予測しうる構成方程式の構築を進め、ある一定の成果を得た。これを受けて最終年度(平成10年度)では、この構成方程式の精度・信頼性を確認するための実験、また用いられた仮定の妥当性を確認するための微視的組織観察・解析を行なった。これらの結果の詳細は、国際会議あるいは論文などの形で広く公表した。さらに具体的な位置決めパイロットシステムの基本設計を試みた。この基本設計の第一歩としては、一端固定の形状記憶合金製円筒の他端に比較的長いバーを取り付け、このバーの端の位置、および発生力を制御する事を考えた。ここでは、軸力をねじりの比較的小さなバイアス力を用い、このバイアス力と温度を制御する事によりバーの端点の位置をあらかじめ決められた経路に沿って最終位置までたどり着かせる。このような形状記憶合金を用いた基本パイロットシステムの実現・実証に対しては、現時点では公表する段階には至っていないが近い将来、公表レベルにまで到達できると考えている。
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