本研究においては、高速輸送機器用構造材料として最も有望視されている時効性β型チタン合金(Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al)の応力-ひずみ曲線に焦点を絞り、時効処理によって形成された組織をパラメータに、その強度の温度とひずみ速度依存性を広い温度(77K〜700K)と広いひずみ速度域(10^<.4>s^<.1>〜10^4s^<.1>)にわたって明らかにし、データベースを構築するため、圧縮変形、および引張り変形試験を実施した。 まず未時効材と時効材についてスプリット・ホプキンソン棒法による衝撃圧縮試験および準静的試験を行い、応力・ひずみ関係の基本的な状況を把握するとともに、ひずみ速度急変試験により応力のひずみ速度敏感性を求めた。その結果、強度の温度、ひずみ速度依存性を熱活性化過程論に基づいて論じることができることを確認した。また、衝撃変形中に生じる断熱加熱効果を考慮した応力-ひずみ関係を求める手法を構築し、予測結果が実験結果と良く対応することを示した。 次に、3種類の時効処理剤について新たに構築したスプリット・ホプキンソン棒型衝撃引張り試験装置による衝撃引張り試験を実施し、応力-ひずみ関係を求め、衝撃強度のデータベースを構築した。また、以下の諸点を明らかにした。(1)引張り試験の場合に生じる弾性的な破断を除けば、衝撃変形での強度はいずれの温度、時効処理材においても準静的変形での強度より上昇した。(2)低温度の衝撃変形では、顕著な加工軟化現象が生じた。(3)衝撃引張り試験での伸びおよび断面収縮率はいずれの温度においても準静的変形の場合に比べて増加した。(4)強度の温度、ひずみ速度依存性は時効条件に依らず同一である。このことは、特に重要な点であり、応力の非熱的成分を低ひずみ速度域で測定すれば、十分な精度で衝撃応力ひずみ曲線を予測することが可能であることを示し、今後、更に広範なデータベース構築の際の大きな指針になると考えられる。
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