立方晶室化ホウ素(c-BN)はダイヤモンドに次ぐ高硬度を有し、化学的安定性にも優れるという特性を持つことから現在注目を集め、広い分野への応用が期待されている。筆者らはこのc-BNを独自に開発した磁界励起形イオンプレーティングによって広い応用が期待される膜として合成に成功した。本研究の目的はc-BN膜の実用化を計る開発研究を行うことである。 申請研究初年度に当たる本年度は、まず膜の実用化を計る上で重要となる付着性の向上を行うために施したイオン注入後処理の効果について検討した。その結果、適切な処理条件を選択すれば、例えばスクラッチ試験による付着性評価によると、約4倍程度の向上が認められ、いくつかの摩擦摩耗試験に於いても優れた性能(摩擦係数低減化、摩擦耐久性の向上等)を示すことが確認された。そこで、磁気ディスクの保護膜としての利用を想定したマイクロトライボロジー性能を調査した。その結果、イオン注入により微少な荷重領域で摩擦係数は低くなるもののマイクロスクラッチ耐久性は劣化することが認められた。実用的な研究の第一歩としてイオン注入により膜の耐久性を向上させた膜を被覆した加工工具を試作して実機評価を行った。その結果、c-BN膜の持つ高硬度および低摩擦特性はc-BN膜被覆工具における耐摩耗性を含む切削性能の向上に寄与することを明らかにした。これらと並行して、c-BN膜の耐久性向上を目的とするc-BN/TiN積層膜の開発に関する研究も行った。具体的には、膜の耐摩耗性の改善のためc-BN/TiN積層化により厚膜化をはかることである。形成した積層膜の全膜厚は実測したところ約1.2um程度(各層(TiNとc-BNそれぞれ)の厚さはほぼ均一である)となり、c-BN膜単層の最大形成可能膜厚(0.5um)より厚く健全な膜を形成することができた。
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