研究概要 |
本研究は超微細結晶を有する純銅の常温のもとでの押込み硬さおよび引っかき硬さを明らかにすることを目的としている.そのために静的なビッカース硬さ試験と3種類の引っかき速度0.05,0.5および5.0(mm/s)のもとでの引っかき試験を行った.実験に用いた試料は純度99.96%で,Equal-channel angular Pressingという方法で加工を施したものである.これを熱処理を施さない状態(No.1)と200℃で3分間(No.2),および550℃で30分間の焼きなましを施した状態(No.3)で試験に供した.それぞれ試験の平均結晶粒径は0.2,0.2,および15(μm)で,200℃での熱処理では結晶粒の成長は認められない.また,試料No.1,No.2およびNo.3のビッカース硬さの値はそれぞれ,1260,1290,470である. 引っかき試験の結果では,No.3の引っかきこんの幅は明らかにNo.1よりも大きく,その引っかきこんの周縁を電子顕微鏡で観察したところ,材料の「むしれ」の状態が見られ,とくに周縁から内部にかけて波打つような表面の凹凸が観察される.これらの凹凸は引っかき方向に垂直な方向に近い状態で配列されているすべり面でのすべりが集積することによって生じたものである.いずれの試料でも引っかき速度を増大させるにしたがって引っかき硬さが増すという結果を得た.本研究で行った引っかき試験では,材料の内部では引張,圧縮,せん断の各応力を受けており,本実験の結果は一般に材料に引張あるいはねじりを与える場合ひずみ速度を増すほど強度が大きくなる傾向があることに対応している. 本研究結果はナノメートルオーダーの超微細な結晶粒をもつ純金属が摩擦というものに対してどのような変形挙動を示すかを明らかにしたものであり,摩耗のメカニズムを結晶粒レベルで解明する上での手掛りとなるものである.
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