潜水病に代表される減圧症は、高圧環境から常圧に戻る際、高圧下の生体中で溶解したガスが環境圧の低下により気泡化し、細動静脈などの末梢循環系障害を引き起こすものと理解されている。しかし、その発症機序に関する知見と乏しい。減圧症の発生因としては、液中の過飽和な溶存ガスが気泡核を激増させ、血管内の気泡塞栓を誘起することが考えられる。従って、液中の気泡核分布に及ぼすガス加圧力、ガスの種類等の影響を明らかにするために、ここでは、既設の高液圧制御容器に本年度購入したコールターカウンターを組み込んだ圧力可変型液中気泡核計側装置を制作し、実験を行った。なお、実験条件としては、液体は水および山羊の血漿、ガスの種類は空気および二酸化炭素、ガスの加圧力は0.2〜2.8MPaである。得られた実験結果を要約すると次のようになる。 (1)ガス加圧力の増大と共に、水中の気泡核数も有意に増加する。特に、二酸化炭素気泡核数の増加は、核直径d>20μmの範囲で著しい。 (2)同加圧力条件下の水中における二酸化炭素気泡核数は、空気泡核の場合と比べて1〜4オーダ増加する。 (3)血漿中の気泡核数は、水中の場合と比較し、3〜4オーダ増加する。 (4)深度40〜60mで空気潜水した場合、大気圧状態と比べて、血漿中においては、5μm〜100μm程度の気泡核数は1.5倍から5倍程度増大する。このような核サイズは生体内の微小循環系の血管内径と比して十分大きいことから、末梢循環系における気泡塞栓を招き、潜水病の発症につながるものと考えられた。
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