減圧症の予防法・治療方法を確立するためには、減圧症発症機序の物理的メカニズムを解明することが急務な課題となっている。常用される空気潜水の場合は、酸素と窒素の混合割合を固定するため、潜水深度が大きくなると窒素酔いや酸素中毒になる可能性が高くなる。そこで、潜水病発症を抑制する方法の一つとして、ヘリウム潜水が注目されている。しかしながら、潜水時にヘリウムガスを用いたときの安全性に関する流体力学的な言及はされていない。本年度の研究は、液中にヘリウムガスまたは酸素を加圧溶解させ、気泡核分布を明らかにすることにより、ヘリウム潜水の安全性について論究することを目的とする。気泡核計測には、前年度購入したコールターカウンターを用いた。なお、実験条件となる、ガスの加圧力は0.5〜4.1MPa、液温は285〜302Kである。得られた実験結果を要約すると次のようになる。 (1) ヘリウムまたは酸素を加圧溶解させた液中における気泡核数Nは、気泡核直径dが小さいほど増加する。 (2) 加圧力の増加によってヘリウム気泡核数は、d<10μmの範囲で約1オーダ増大する。減圧後24時間経過した気泡核数Nは、減圧直後と比べて約1/2〜1/10に減少する。 (3) 加圧力の増加によって酸素気泡核数Nは、数倍から約1オーダ増加する。減圧直後の核数Nは、減圧直後と比較して約1/2〜1/7に減少する。 (4) ガス過飽和液体中において気泡核数が最も少なくなる気体は、ヘリウムであり、次いで、空気、酸素、二酸化炭素の順になる。このことは、ヘリウム潜水の安全性を示唆するものと言える。
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