血液循環系における気泡寒栓症は、減圧症の合併症として知られているが、その発症機構については不明なところが多い。本研究では、ガスを溶解させた液体の圧力を変化させることによって生成する気泡核について明らかにしてきた。生体内の血液循環系で局所的に圧力が減じた場合も、気泡形成の可能性が考えられる。最近、人工弁装着患者の脳動脈寒栓症の要因として、人工弁近傍で発生する微細気泡とする仮設が提示され、その妥当性が議論されている。そこで、本研究では、人工弁の中でも臨床上最も多用されているSJM型機械弁のモデルを試作した。次いで、定常流動型実験装置の測定部にそのモデル人工弁を取り付け、流動実験を行った。よって、人工弁まわりで発生する微細気泡および気泡核分布を、瞬間写真撮影法およびコールターカウンター法を用いて明らかにした。得られた結果を以下に示す。 (1)人工弁後流において、直径0.05〜0.4mmの大きさの微細気泡が発生する。気泡の数密度は、流量が大きいほど、また、弁解放角度が大きいほど、増加する。 (2)人工弁後流で検出される気泡核は、約5〜25μmで、その核数は流量が大きいほど増加する。 (3)人工弁を逆流する場合の微細気泡数は、正流条件の場合と比べて、40〜74%減ずる。 (4)ヒト動静脈の血管径は20〜40μm程度および毛細血管のサイズは数μであることを考慮すれば、人工弁まわりで発生する微細気泡や気泡核は、血管閉塞を誘発する要因となるものと考えられた。
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