半球頭部円筒体まわりの流れにおいてレイノルズ数が臨界値よりも小さい場合、境界層は一旦層流剥離した後、再付着し乱流境界層となる。このような状態においては、シート・キャビテーションが観察される。一方、レイノルズ数が臨界値よりも大きいか、物体表面上に取り付けたトリッピング・バンドによって境界層に撹乱を与えることで層流剥離を除去した場合、シート・キャビテーションは発生しないが、スポット・キャビテーションをしばしば観察することができる。これは、最低圧力点付近のある固定した位置から発生するくさび状のキャビテーションである。このキャビテーションは、物体表面上の微細な孤立した凹凸に起因するものと考えられている。本研究では、半球頭部円筒体のトリッピング・バンド下流の直径0.3mmの小孔からスポット・キャビテーションを人為的に発生させ、キャビテーションの挙動を瞬間写真および高速映画によって観察した。キャビテーション数は0.91である。キャビティ後端からは逆U字形の渦キャビテーションの周期的放出やキャビティ・クラウドの分離が観察される。渦キャビテーションやキャビティ・クラウド放出のストローハル数(キャビティ厚みを代表寸法とする)は、流速に無関係に約0.41であった。キャビテーション数0.91、流速25から50m/sの範囲において、アルミニウム試験片に発生した損傷ピットの分布を調べた。単位時間・単位面積当たりの損傷ピット数は、周方向に約1.3mm離れた位置で極大となる。流れ方向には、平均キャビティ後端位置あるいはそのわずか上流で最大値をとる。最大損傷位置における単位時間・単位面積当たりの損傷ピット数は流速の約5乗に比例して増加する。逆U字形渦キャビテーションやキャビティ・クラウドの崩壊に加えて、リエントラント流れによるキャビティ後端付近での気泡崩壊が、スポット・キャビテーションによる激しい損傷の要因になるものと考えられる。
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