生体の凍結保存に関連して、その凍結現象は、本質的に、非定常・三次元的であり、凍結過程の微視的構造のより詳細な解明には、三次元構造の実時間観察が要求される。本研究では、試料内部の形態情報を高空間分解能で取得できる共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)と蛍光色素を併用した蛍光観察により、人間の赤血球懸濁液の細胞外凍結過程における微視的挙動を実時間三次元計測した。 実験材料は人間の赤血球懸濁液で、生理食塩水に対するグリセロール(2.4M)添加の影響を調べた。共焦点レーザー走査顕微鏡では、レーザー光の水平面走査とステージよる試料の垂直移動により、光学的断層像が非侵襲で連続的に得られる。蛍光色素として、1波長励起1蛍光のフルオレセインイソシアネート(FITC)と1波長励起2蛍光のアクリジンオレンジ(AO)が検討さたが、氷・赤血球・未凍結水溶液の三者を黒・赤・緑と色的に明確に区別できるAOを採用した。 生理食塩水の赤血球懸濁液の場合、セル状氷結晶は赤血球が分散する未凍結水溶液中を成長し、大部分の赤血球はセル状氷結晶に押し退けられ、氷結晶間の未凍結水溶液中に三次元的に集積され、詰め込まれる。垂直断面のセル氷結晶は、断面内で傾斜し、重なり合い、ほぼ周期的な三次元構造であり、その垂直断面内成長は非等方的である。 これに対し、グリセロールを添加した生理食塩水の場合、垂直断面内の氷結晶がほぼ等しい方向に傾斜しほぼ周期的に配置する点、その断面内での成長が非等方的である点など、生理食塩水の場合と同様であるが、グリセロールを添加した場合には樹枝状氷結晶の垂直断面内には亀裂部や赤血球が存在する。この亀裂は冷却速度の大きい方が頻繁に存在する。さらに、固液界面は、生理食塩水の場合のような単調な曲線ではなく、小さく波立ち状に変形すると共に、界面近傍の赤血球に即して柔軟に変形し、三次元性が強い。 さらに、細胞の集合体である生体組織に対して、CLSMと蛍光色素の併用による実時間三次元計測を適用できた。次年度にこれをさらに発展させる予定である。
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