生体細胞や組織の凍結保存、および、腫瘍などの組織の凍結手術に関連して、その凍結・融解現象は、本質的に、非定常・三次元的であり、凍結・融解過程の微視的構造のより詳細な解明には、三次元構造の実時間観察が要求される。本研究では、試料内部の形態情報を高空間分解能で取得できる共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)と蛍光色素を併用した蛍光観察により、非侵襲で、生体材料の凍結・融解過程における氷結晶と細胞の三次元微視的挙動を解明した。生体材料として、細胞懸濁液(人間の赤血球懸濁液)、および、細胞の集合体である組織(鶏の胸筋)を用い、前者では細胞外凍結条件の場合について調べ、後者では、冷却速度・加温速度について、各々、緩速(1℃/min)・急速(100℃/min)の計4通りの熱履歴条件に対して、凍結保護物添加の影響を調べた。このような実時間・三次元計測は本研により初めて行われた。CLSMと併用する蛍光色素として、1波長励起1蛍先のフルオレセインイソシアネートと1波長励起2蛍光のアクリジンオレンジが検討され、氷・細胞・未凍結水溶液の三者を黒・赤・緑と色的に明確に区別できる後者を採用した。 人間の赤血球懸濁液では、生理食塩水のみの場合には、大部分の赤血球がセル状氷結晶に押し退けられ、氷結品間の未凍結水溶液中に三次元的に集積、詰め込まれる、柔軟性のない氷・細胞間相互作用を示す。それに対して、グリセロールを添加した場合には、樹枝状氷結晶の垂直断面内には亀裂部や赤血球が存在し、固液界面は、生理食塩水の場合のような単調な曲線ではなく、小さく波立ち状に変形すると共に、界面近傍の赤血球に即して変形する、三次元的な柔軟な氷・細胞間相互作用を示す。 筋組織では、緩速冷却の場合、基本的な凍結様式は細胞外凍結で、凍結・融解後には筋繊維間に不可逆な大きな亀裂が残留する。一方、急速冷却の場合、筋繊維間の氷結晶だけでなく筋繊維内に多数の微細な氷結品が散在する細胞内凍結で、凍結・融解後には筋繊維内に微細な多数の亀裂が残留する。いずれの冷却速度においても、加温速度の緩速化は、氷結晶による残留亀裂の粗大化、融解後の筋繊維の変形の助長を引き起こす。ジメチルスルホキシドによる処理は、いずれの熱履歴条件に対しても、筋繊維内外の残留亀裂の大きさ、融解後の筋繊維の変形の程度を飛躍的に緩和することを明らかにした。
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