半導体製膜および光学薄膜の高品位化に有効なクラスターイオンビーム蒸着法で重要となる金属蒸気の超音速膨脹によるクラスター生成につき研究を行った。真空チャンバー内に設置したるつぼ上部のノズルより金属蒸気を高真空下に噴出させ、この際の断熱膨張に伴う過飽和場からのクラスター生成を制動電界法により測定した。その結果、イオン化後に電界加速を行った場合にはクラスターが検出されなかったが、イオン化後の電界加速を行わず約20Vの電子衝撃でイオン化を行った場合にはクラスターが検出された。このことから電子衝撃・電界加速はクラスターを破壊する恐れのあることが分かった。次に円筒ノズル、および直径の異なる2種類の末広ノズルを用いて実験を行った結果、直径の大きい末広ノズルの場合にクラスターが最もよく生成されることが分かった。さらにルツボ加熱フィラメントの形状を種々変化させ、ノズル部とルツボ下部の温度差を変化させて実験を行った。その結果、ノズル部温度をルツボ下部に比べ100K程度低くした場合にクラスターが最もよく生成された。すなわちノズル部を通過する蒸気流の温度がノズル壁面からの伝熱の影響を受け、クラスター生成の促進のためにはノズル壁温の制御が重要であることが分かった。以上の実験に加え、過飽和蒸気中のクラスターの挙動について分子動力学計算を行い、クラスターサイズの減少に伴う表面張力の低下を把握した。核生成速度の見積りにおいてこの表面張力低下を考慮するとともに、クラスター成長過程における凝縮熱の発生とその緩和を考慮した理論計算を行い、ノズルを通しての超音速膨張により生成されるクラスターサイズを求めた。その結果、低融点・高蒸気圧の亜鉛についての実験的傾向をよく説明することができた。
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