触覚は生物にとって最も基本的な感覚であるが、視聴覚と異なりこれを人工的に合成することは困難が伴う。そのため、従来は触覚が情報メディアとして活用されることはほとんどなかった。本研究は触覚(特に力覚)の情報をメディアにとり入れて、それを通信することによって複数の人が協調作業を行うことの実現を目指している。 力覚情報を呈示するためには、操作者の手に外界から機械的な刺激をあたえなければならない。そのため、申請者は多関節型機構を用いたフォースディスプレイを試作してきた。この装置は把持部に3自由度の力を発生させることができる。本研究ではこの装置を用いた力覚帰還環境を2セット用意して2人の人間による協調作業を行う。 力覚フィードバックを行うためには、前述のフォースディスプレイを計算機に接続し、しかるべきソフトウェアを実装しなければならない。本研究では効率的なソフトウェア開発を行うため、プログラムをいくつかのモジュールに分けて、再構成が可能なようにしている。このようなソフトウェアプラットフォームをLHXと呼んでいる。平成9年度はLHXを用いてTCP/IPベースの通信機能を含んだフォースディスプレイ制御用ソフトウェアを開発した。このような共有仮想空間では、2人の操作者は相互に力覚を共有できるため、高度な教示作業を実現することが可能である。そして、平成10年度ではフォースディスプレイを視覚呈示装置と組み合わせ、手術シミュレータという高度な応用事例を通じて本システムの性能評価を行った。その結果、共有仮想空間で2人のユーザが協調作業を行うのに十分な性能が得られたことが明らかになった。
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