昨年度までは、撥水性粒子と親水性粒子を混合したモデル触媒層での液浸透実験を行なったが、本年度は実際のリン酸形燃料電池用の触媒層を用いてリン酸浸透の実験を行なった。その結果、リン酸は触媒層を1時間以内の短時間で通過することが出来、リン酸の占有率30%以下(確率的にはリン酸は島状になり、液連結ができない)でも移動可能であった。すなわち、親水性粒子である触媒が連結していれば、リン酸の占有率に限界値は現われないことが確認された。 長期間運転したリン酸形燃料電池から採取した電極板を用いて、面方向のリン酸移動現象を調べた。リン酸移動には前進濡れ角と後進濡れ角の差の影響が大きく、リン酸量が多い場所と少ない場所があるにも係らずリン酸移動が停止することが判明した。リン酸に濡れにくい新品の電極板ではこの傾向が顕著に現れた。電極板に多量のリン酸がある場合は、リン酸は容易に移動できるが、リン酸量が減り確率的にリン酸が島状になるリン酸占有率30%近くで、急にリン酸移動が移動できなくなることが確認された。この現象は、液浸透理論から予測された通りの結果である。リン酸形燃料電池のリン酸が徐々に消失して、このリン酸移動不能領域に達するとリン酸補給が困難になり急激な性能低下が起るものと考えられるので、これらの理論及び実験結果はリン酸形燃料電池のリン酸消失寿命の予測と長寿命化に役立つものである。
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