ソースおよびドレイン電極の間に島状部を配した単一電子トランジスタ構造は、微細化に伴いMOS素子など従来素子の問題点が指摘される中、未知数ながら将来を嘱望されている素子構造である。本研究では、この単一電子トランジスタが将来の集積化素子用に極微細化された時に、従来の物に比べてその動作機構がどのように変化し、電流電圧特性がどのようのに変わっていくか検討を行なった。マクロな素子では島状部が多数の電子を含みそれ自体ほぼ熱平衡にあると見なせるのに対し、微細化されて量子ドットになると、トンネル遷移により少数のエネルギ・レベルを通じて電子がソースからドレインへと共鳴輸送される量子力学的な系に変わる。しかしながら、電子のパスがループを持たないため電子波の干渉はあまり問題とならず、電子がコヒーレントに共鳴トンネルしても逐次的にトンネルしても電流値は変わらないことが示されている。この事実を用いて電流値を算出する簡単な手続きを構成し、電子輸送を制御する機構を解析した。量子ドット内のレベル構造が最も簡単な2重縮退の単一レベルの場合に、電流のゲート電圧・ドレイン電圧依存性を調べ電流マップを作り、また各パラメタの電流への影響の仕方を確認した。さらに、現実素子に近いモデルとしてシリコンの直方体構造の量子ドットを有する単一電子トランジスタを取り上げ、その電流電圧特性をモンテカルロ・シミュレーションによって求めた。得られた電流値により大まかながら極微細な単一電子トランジスタの電流電圧特性の全体像を描くことが可能であり、高集積な回路等への応用に向けての足掛りが得られつつある。他に、単一電子トランジスタ構造以外にも極微細の素子に関連する問題の解析をも進めている。
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