本研究では、低バンドギャップ物質の量子井戸構造を利用してシリコン太陽電池ではカバーできなかった自然光の長波長域を有効利用しつつSiと同等の高起電力が得られる新しい太陽電池形成のための材料開拓と関連技術の達成を目指した。Siに格子整合するナローギャップSiGe混晶量子井戸を用い、エピ技術とバンド工学による機能化を試みた。 前年の結果に基づいて、吸収バンドの長波長化について検討した。光吸収測定と光伝導電流対光起電力測定から太陽電池モードを確認した。光吸収からは、長波長側から量子井戸の2次元性と伝導帯の3次元性を示す3/2乗に比例する吸収が観測された。また、室温までの温度上昇に伴って正孔がSi障壁バンド端へ熱励起され、光短絡電流が指数関数的に増大することが確認された。またこの際、サブバンドギャップの入射光に対しても吸収が生じる領域では、予想どおりに0.6Vのオープンサーキット起電力が生じることがわかった。 一方、電力効率向上のためのキャリア輸送について検討した。量子井戸の組み込み位置に関して調べ、量子井戸ポテンシャルによる有効キャリアブロッキングでは、垂直電場印加下の時間分解測定にキャリア再分布による異常が生じることがわかった。この結果から、ビルトイン電場をドーピングにより取り入れることでキャリア分布を制御できることがわかった。この結果は、傾斜バンドギャップを組み込んだSiGe傾斜濃度基板の光電流測定で、ビルトイン電場により光電流極性が近赤外入射光の波長掃引に関して反転することからも確認された。 さらにSOI基板上へのエピ成長多重量子井戸では、自然放出と垂直入射の反射測定からファプリペロー干渉を確認し、SOI上エピ層の光共振器化が達成された。これに呼応して垂直入射では光伝導電流が波長選択性を示し、疑似共鳴光検出の予備検証ができた。
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