本研究は、シリコン基板上にエピタキシャル結晶形成可能な超格子材料を用いた発光・受光デバイスを実現するための基礎研究として、これまで報告者らにより開拓されたシリコン基板上へのナノクリスタルシリコン/弗化カルシウム(絶縁体)へテロ構造形成技術を確立し、さらに、結晶形成法と発光特性の関係を明らかにすることを目的とする。 この目的を達成するため、本年度は以下の成果を得た。 金属/絶縁体へテロ構造形成に用いる材料としては、薄膜エピタキシャル成長の条件が既に明らかとなっているシリコン(Si)、絶縁体として弗化カルシウム(CaF_2)を用いた。半導体の凝集しやすい性質を人工的に制御して半導体ナノ微結晶を形成し、その形状および密度を走査型電子顕微鏡、および走査型トンネル顕微鏡を用いて観察することにより最適化した。本手法により形成されたナノメートルサイズの微小な半導体結晶では、フォトルミネッセンスにおいてバルクでは見られない発光が観測されることを本研究ではじめて見い出した。本年度は、CaF_2/Si(111)中に形成したナノクリスタルSiの発光強度を向上させるため、ナノクリスタルシリコンの急速アニール(Rapid thermal annealing=RTA)プロセスを試み、これまで非常に微弱で、面内不均一の激しかった室温におけるフォトルミネッセンス発光において、均一かつ安定な発光を室温において実現する条件を明らかにした。この過程で、RTAプロセスにおける温度、雰囲気、アニール時間とナノクリスタルシリコンの形成条件との関係が明らかとなり、本結晶を電流注入素子に応用するうえでの加工プロセスにも耐えうる結晶の形成法が確立された。今回本研究において作製された結晶を、トンネル注入型の電子およびホール注入機構を装荷して電流注入型発光素子を実現することが次年度の課題である。 本研究の成果は、シリコン基板上エピタキシャル金属/半導体/絶縁体へテロ構造発光・受光デバイス実現の可能性を示唆するものであり、今後、基礎物性的な知見とともに、デバイス応用の観点からも広大な学問分野が開ける可能性を有する。
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