本研究は、シリコン基板上にエピタキシャル結晶形成可能な絶縁体及び半導体超格子を用いた発光・受光デバイスを実現するための基礎研究として、これまで報告者らにより開拓されたシリコン基板上へのナノクリスタルシリコン/弗化カルシウム(絶縁体)ヘテロ構造形成技術を確立し、さらに、その新しい材料系の光物性を明らかにするとともに、発光素子応用への基礎となる実験的・理論的研究を目的とする。 平成9年度〜平成10年度の研究により以下の成果を得た。 半導体/絶縁体へテロ構造形成に用いる材料として、薄膜エピタキシャル成長の条件が既に明らかとなっているシリコン(Si)、絶縁体として弗化カルシウム(CaF_2)を用いた。シリコンと弗化カルシウムの結晶結合様式の相違によって生じる偏析効果を利用して、単結晶弗化カルシウム中へのシリコンのナノクリスタル形成を温度と同時蒸着レートを制御することにより半導体ナノ微結晶を形成する。本研究では、この結晶からバルクCaF_2およびSiでは見られないフォトルミネッセンス発光が観測されることをはじめて見い出した。また、CaF_2/Si(111)中に形成したナノクリスタルSiの発光強度を向上させるため、ナノクリスタルシリコンの急速アニール(Rapid thermal annealing=RTA)プロセスを試み、これまで非常に微弱で、面内不均一の激しかった室温におけるフォトルミネッセンス発光において、均一かつ安定な発光を室温において実現する条件が明らかとなった。この過程で、RTAプロセスにおける温度、雰囲気、アニール時間とナノクリスタルシリコンの形成条件との関係が明らかとなり、本結晶を電流注入素子に応用するうえでの加工プロセスにも耐えうる結晶の形成法が確立された。本年度は、この方法を用いて形成された結晶を、トンネル注入型の電子およびホール注入機構を装荷して電流注入型発光素子を作製した。フォトリソグラフィーと選択エッチングを用いることにより、ナノクリスタルシリコン層へ透明導電膜ITOをパターニングしてコンタクト電極を形成した。この構造の室温電流注入発光を観測し、始めて電極全面にほぼ均一で6時間以上安定な電流注入発光を観測した。 本研究の成果は、シリコン基板上の単結晶ヘテロ構造を用いた新たな光機能材料の提案であり、今後、基礎物性的な知見とともに、素子応用の観点からも広大な学問分野が開ける可能性を有する。
|