本研究では、ワイドギャップ半導体の中でも最も大きな励起子分子効果が期待できるZnS系量子井戸構造を設計・作製し、低次元系励起子分子の輻射再結合過程を利用した紫外半導体レーザ構造の作製を試みた。特に、励起子分子の結合エネルギーと局在化の度合いを定量的に評価し、励起子分子に対する量子閉じ込め効果の最適化と励起子分子の局在化が光学利得生成に与える効果を明らかにすることを目的とした。 まず、減圧有機金属気相成長法により、混晶量子井戸層のCdの組成比と量子井戸層幅を変化させて作製した一連のCd_xZn_<1-x>S-ZnS量子井戸レーザ構造に対して、励起子分子発光の励起スペクトルの測定を行った。その結果、励起子分子の2光子吸収過程が明瞭に観測され、励起子共鳴とのエネルギー差より励起子分子の結合エネルギーを定量的に評価した。現在までに、その結合エネルギーとして最大値約34meVが得られた。この値はZnS薄膜における励起子分子結合エネルギー(8.0meV)の約4倍であり、室温における熱エネルギー(26meV)を上回っている. 次に、一連の試料を用いて共振器構造を作製し、光励起下でのレーザ発振特性を測定したところ、Cdの組成比がx=0.22、井戸層幅がl.6nmの試料において約240K程度まで励起子分子の輻射再結合過程に基づいた誘導放出を観測することができた。この上限温度は、これまでに励起子分子による誘導放出として報告されているものの中では最も高い。また、励起子分子による誘導放出が生じている場合、そのしきい値と励起子分子の局在化の度合いはほとんど無関係であることが明らかにされた。従って、励起子分子による誘導放出機構を室温においても達成するためには、今後、その結合エネルギーの更なる増大(少なくともLOフォノンエネルギー(40meV)以上)が必要不可欠であると考えられる。
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