a. 主に高分子をタングステン酸に添加したところ、様々な添加物においてフォトクロミズム増感が見られることを見いだした。この増感現象は添加物の種類に依らず同様であったことから、増感現象を促す添加物には何らかの共通点があることが示唆された。そこで、各種の低分子量の有機物をタングステン酸に添加し、その際のフォトクロミズムの様子を観測することにより、フォトクロミズム増感の原因となる添加物中の特徴を見いだした。以下にその詳細を列挙する。 1. ヒドロキシ基[-OH]は、フォトクロミズム増感に直接的には関与していないことが明らかとなった。 2. 増感現象は低分子量の物質の添加によっても生じ、O-C-H部分構造を含んでいる物質の添加により生じる。この部分構造中においては、電荷は電気陰性度の大きい酸素側に偏るため、C-H間の結合が弱められ、容易に酸化されて水素が解離するものと考えられる。この水素がタングステン酸と結びつき多量のタングステンブロンズ(青色)の生成を促進する(※電気陰性度酸素:3.4、炭素:2.6、水素:2.2)。 3. 水素の解離は電荷の効果のみに依る訳ではなく、添加物の酸化過程の遷移状態(ラジカル)の安定性、即ち添加物から水素を解離する際の活性化エネルギーに依ることが明らかとなった。 さらに、半経験的分子軌道計算により、各有機物から水素が解離する反応過程における反応熱の計算・比較を行い、より定量的にフォトクロミズム増感現象について検討を行った。この計算結果と前章の実験結果との比較により、反応熱の低いものほど着色濃度が高いことが明らかとなった。フォトクロミズム増感について得られた定性的・定量的な考察を元に、増感をもたらす新たな物質の予測を行った。その結果、アミンや塩化物が増感物質の候補として挙がったが、今回用いた試料(タングステン酸)が酸性においてフォトクロミズムを示し水を媒質とするゲルであることから、アルカリ性のアミンや難水溶性の塩化物ではその効果が顕著には現れなかった。しかしながら、これらの物質の添加により僅かではあるが増感現象が認められており、本研究において得られたフォトクロミズム増感機構に関する知見は普遍的なものであることが示唆された。 b. 幾つかの種類のゲルにおいてゾル-ゲル過程における表面波測定を行った結果、特にゲル化点近傍における表面波が異なる振る舞いを示すことが観測された。タングステン酸ではゲル化点近傍に於いて表面波速度が不連続な変化を示したのに対し、ゼラチンでは連続的に変化した。これらの特徴は、タングステン酸では微粒子が比較的均一に凝集することにより、ゲル化点近傍において一度にマクロなゲルが形成されるのに対し、高分子ゲルにおいては不均一なゲル化が進行することを示しているものと考えられる。このような違いから、高分子をタングステン酸に添加する量を調整することにより構造を調節することが出来ることが示唆された。 c. ゲルの乾燥時における構造の変化を調べガラス状態への移行の様子を明らかにするとともに、低温におけるガラス作製に関する基礎的な知見を蓄積した。
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