広範囲の電流密度(エネルギー傾斜)上の緩和に関する障壁エネルギーを得ることができれば、ピンポテンシャルの定量的な評価が可能となるが、そのためには、数ヵ月、数年に渡るクリープ特性の連続観察が必要となる。その解決法として高温励磁法を提案した。即ち、まず高温(To+〓T)で超伝導体を励磁し、磁界を一定に保ったまま湿度を下げ動作温度(To)にすれば、高温での低い電流密度に対応した、なだらかで長時間の経過後と同様な磁束分布を短時間で実現できる。即ち、高温励磁後の磁化緩和は長時間経過後の緩和の実験的シミュレーションになり、従来は諦められていた数ヵ月以上の長期に渡る緩和特性を得ることができ、広い時間領域をカバーできる。この方法は、超伝導体内の磁束分布を任意に設定することでもある。しかしその際磁束クリープの大きいY系酸化物超伝導体で〓Tを大きくして、長いシフト時間を得ようとすると、試料によっては特異な初期の遷移期間が生じ、その後定常のクリープ特性に入ることが判った。この遷移領域について詳細に調べ、次の結果を得た。 ●高温励磁後のクリープをオフセットすると、低温、低磁界ではノーマルクリープ特性の上部から漸近する。 ●一方、高温、高磁界では、下部から漸近する傾向がある。 これらの現象の詳細な検討と考察から、試料表面での反磁性による磁界の飛びは上部からの漸近、試料内の結晶粒界のは下部からの漸近を生じることが示された。 この高温励磁法は磁化の緩和の対症療法ではあるが、非常に有効であること。しかしこの方法を長時間の緩和現象の評価に適用する際には、試料による適・不適があることが明らかになった。
|